あさが来た はつに忠興と梨江からの最期の贈り物お父はんお母はんありがとう
和歌山の土地の証文を元になんとかどん底から這い上がって人生をやり直して欲しいと願う親心を頑なに拒否するはつにあさが五代さま譲りの柔軟な発想を提案する
東京行きが決まり、梨江は旅立ちの前によのに挨拶しておきたいと訪ねてきたのでした
梨江とよのは客間で語り合いました
梨江が生母としてあさの至らなさを詫び、よのは姑として行き届かない事が多いと頭を下げました
よのがに皮肉っぽく言い訳したようにあさは炭鉱を購入してから、月の半分は大阪を留守にして九州に行ってしまう
うちが嫁に来た頃は姑さんが厳しくてなあ
うちも同じどす
自分もああはならんように思っていたんですが
あの姑さんの気持ち分かるようになってきたと申しますか
梨江は申し訳なさでいっぱいです
嫁姑談義に花が咲き堅苦しさが消えて行きました
これたいしたものやありませんけど、加野屋様に似合思てお仕立てしてきたんどす
梨江が風呂敷包みを開くと京都ならではの豪華な記事の着物がたたまれています
まあ綺麗
かの見てぇ、大喜びするよの
まぁ、おおきに
よのの顔がぱっと輝いたのを見て、梨江はほっと胸をなで下ろしていました
あさは加野屋に嫁いで何年にも経つのに未だ子宝に恵まれないばかりか、炭鉱などという男勝りの仕事で留守が多い、離縁されてもいたしかたない
梨江は座敷であさと向かい合ってそんな小言を口にしつつ、あさが選んだ道も女の一つの生き方には違いないと思い始めていた
あさ覚えてる?
あさが小さかった頃、おなごは何も知らんでええと言った事
梨江は女に学問は必要なく商売の事を知る必要もないと教えた
そやけど、そやけどうちの考えは・・・まちごうてたのかもしれへん
その証拠にはつのお家はあないになってしもうたいうのに、お商売に首を突っ込んだあんたはこうして今もお家を守ってる
はつはなんにも悪ない
悪いのはうちです
そうですやろか?
あさが膝を打つかと思いきや、意外にも自分も間違ったのでは無いか?と憂い顔をしている
そうかてなんぼお家の為にて気張っても・・・殿方はんなやかんや言う手、家にいてるおなごが好きんあんだすやろ?
梨江が噴き出しました
驚いたぁあんたが今ごろそないなこと思てるやなんて
今更、あさから小娘のような悩みを菊とは思わなかった
いやや、笑わんといてくれやす、おなごとしての自信があれへんのだす
自信をもちなさい、これからのおなごはあんたのように生きた方がいいのかもしれへんえ
あさのように胸を張って堂々と生きなさい
そやけど、あんたの場合はちとやり過ぎかもしれまへんけど
おなごのしなやさかさを忘れたらあきまへんえ
あさを力づけると、梨江は一つだけ忠告しました
わかりましたおおきにお母はん
それから、梨江はおもむろに、和歌山に所有している今井家の土地の証文をとりだしました
ここは長い間使っていない
今井家が東京に行けば、なおさら持っていても意味がない
それやったら、はつやご一家の皆さんが(山王寺屋の家族)新しい人生を始める為に利用してほしい
うちが渡しても、はつは決して受け取らへん、そやからあんたに渡して欲しいんや
これがうちとお父はんからの最期の贈り物なんや
梨江が託した証文を、あさは大切に懐にしまいました
梨江が帰り支度をはじめたのであさはその旨をしらせによのがいる小部屋に顔をだしました
よのは着物をいただいたお礼にと梨江への土産によさそうな手作り人形などをあれもこれもと選んでいます
張子犬まであります困り顔のあさmb
梨江の帰る時間が遅くなり、手荷物はどんどん増えるばかりです
あさが困っていると裏口から聞こえてきたのははつの声です
あさが裏口に行ってみるとはつが何やらふゆに手渡ししている
頼まれていた漬物ができたと、届けに来てくれたのです
お姉ちゃん、あのな
あさが懐の証文を取り出しました
店の思てでは梨江とうめが別れを惜しんでいます
さすがにもう相撲は取ってへんやろうなぁ・・
へえもちろんだす・・言い切るうめでした
そこに出かけていた新次郎が帰ってきました
新次郎さんおてんばでじゃじゃ馬で、どうしょうもないあかん子ぉやったあの子をこんなふうに取り立てててくれはるんは、あなた様、他いてません
新次郎さんどうぞこれからもあの子の手綱を握っといとおくれやす
いや、お義母さん、そない頭下げてもろても、わてなぁんもしてまへんのだす
新次郎が気のいい笑みを浮かべます
お母はん!
静かにはつが店から出てきました
すぐあとにあさがやってきます
はつがたった今、あさから渡された証文を梨江に突き返しました
これは受け取られしまへん
家を失うたのは、山王寺屋が自ら招いた災いだす
潰れてお家がのうなってしもても、山王寺屋はもう維持でも今井屋さんから施しを受ける訳にはいかへんのだす
施しやなんて、そんなつもりや・・・
はつの肩肘張った態度に梨江はたじろいました
はつが言います
お願いだす
持って帰ってくれなはれ!
それでも親は子がいくつになっても何か力になりたい
なしてや、はつは少女の頃から弱音を吐かずに我慢してきた子です
その時あさの頭にピカッと閃くものがあった
あ・・バンクや
バンク?新次郎が聞き返します
そうだす銀行だす
お姉ちゃん、お父さんがつくりはる銀行いうのはな、志のある人の為にお金を貸してくれはることなんだす、今お姉ちゃんと惣兵衛さんは、お子たちが増えて精一杯お仕事を頑張ってはる
その志のあるお姉ちゃんたちを信用して、応援して、助けてくれる、それが銀行いうもんなんだす
あさは説明しつつ、梨江から証文を受け取りはつの手に押し付けました
せやからこれはもらうんやあれへん
貸してもろたらええんだす
あさがはつの手を握りしめながら
ほんでこれかしてもろた分、お姉ちゃんたちがその信用に応えて頑張って、そないしていつか何倍にでもして返したらよろしいのや
そんなことできるわけ(ない)?
いえ、そうしなさい!
あんたも言うてたやなにの青物には不思議な力があると
梨江は有無を言わさぬ口調になりました
あんたらはまだ若い、これからいくらかに地に足つけて新しい人生歩む事ができるんえ
うちもお父さんもな、あんたにそれ貸して、あんたら親子が、これからどう生きるか見届けたいんや
お母はん
お願いえ、はつ
母の最期のお願いどす
はつはしばしば葛藤し、最期まで残っていた意地のかけらを捨てました
張り詰めた空気が流れます
わかりました
遠慮のうお借りします
おおきに
ほんまおおきに、お母はん
やっとはつに笑顔が戻りました
うれしくて頷く梨江でした
はつは証文を手に取り大事そうに胸に抱きました
みんなを見守る新次郎、あさに何かを発見しました
それから数ヶ月たったある日、あさは意を決して座敷に行き正吉の前で姿勢を正しました
ご相談したいことがあるんだす
そろそろ来る頃やと思ってましたんや・・・
正吉の言葉に思わす
えっ?
びっくりぽんなあさです・・正吉はどうしてあさが来ると分かっていたのでしょうか